‘商標関係’
最近話題の「音の商標」ってどんな商標?
最近、商標法の改正があり、いままで商標登録できなかった、いわゆる「新しいタイプの商標」が登録できるようになりました。
その中でも注目を集めているのが「音」の商標。
特許庁の説明会などで典型的な例として紹介されていたのが、久光製薬のCMで流れている「ヒ・サ・ミ・ツ~♪」という音。
このように、その音を聞いた人が「あぁ、あれね!」と思いつくような音には商標登録を認めましょうということになりました。
久光製薬のCMのようなものだけでなく、ファミリーマートの入口で流れるチャイムの音(「ファミファミファミーマ、ファミファミマ~♪」と聞こえませんか?)や、電子マネー「ワオン」の決済音(犬の鳴き声で「ワオンッ!」って聞こえるアレです。)なんかは、「音の商標」の登録対象になりそうです。
このような「音の商標」ですが、法改正初日だけで相当たくさん出願されたようです。
その中でも注目を集めているのが大幸薬品の商標。
そうです、あの「正露丸」のCMで流れるラッパのメロディーです。
音の商標登録の制度は始まったばかりですので、日本でどの程度、権利としての効力があるのかは未知数です。
でも、こうやって注目を集めた時点で既に商業的には「効果アリ」なのかも知れません。
2015年4月2日付けの産経新聞の記事では、「芸人の一発芸など楽譜にならない音も商標としての用途が認められれば登録対象になるが「出願が出てくるかは未知数」(知財専門家)。」などという意見も紹介されていますが、果たしてどうなんでしょうか。
一発芸だけでなく、落語家さんの出囃子なんかも商標登録しようと思えばできるのでしょうが、我々のような専門家からすると、せいぜい芸人さんの「話のネタ」にはなる程度かもと思ってしまいます。
とはいえ、ついつい「意味が無い」と片付けてしまいがちなものに思わぬ価値が潜んでいることもあります。
否定してしまうのは簡単なことですが、せっかく採用された新しい制度ですので、これを活用しない手はないですよね。
「音の商標」などの「新しいタイプの商標」が登録できるようになったのを契機に、これまでの発想を超えた柔軟な発想で、斬新な商標の活用方法やビジネスモデルが生まれてこないか、楽しみです。
球団に学ぶブランド戦略
■「阪神タイガース」の商標、使いませんか?
先週、阪神タイガースの商標使用についての商談会が行われたというニュースがありました。
(http://webnews.asahi.co.jp/abc_2_004_20141204001.html)
阪神タイガースといえば、関西ではピカイチのブランド。
かつては「ダメ虎」などと言われ、さんざんな時期もありましたが、いくら弱くても関西人に愛される驚異的なブランド力をもった球団です。
関西では、勝っても負けてもスポーツ新聞の一面は阪神。
野村克也監督は、かつて南海ホークスの名捕手でしたが、「関西には阪神、南海、近鉄、阪急と4つも球団が存在しているのに、いつもスポーツ新聞の一面は阪神。いくら自分が活躍しても、阪神よりも取り扱いが小さい。」といった趣旨の「ぼやき」をしていましたが、それも頷けてしまいます。
こんなに関西人に愛される阪神タイガースの商標ですから、今回の商談会にも約40社が応募してきたとのことです。
村上ファンドの影響で阪急・阪神が合併したこともあり、球団経営にも利益性が求められていることでしょう。
今回の商談会は、阪神タイガースというブランドを、ロイヤリティを取得するという正攻法で球団経営に活用した例といえます。
■ロイヤリティだけじゃない、逆張り利益向上戦略
ここで、わたしが球団の知財戦略として思い出すのが、福岡ダイエーホークス(現:ソフトバンクホークス)。
ダイエーホークスといえば、南海ホークスから身売りされ、フランチャイズを大阪から福岡にうつした球団です。
かたや、福岡といえば、かつての西鉄ライオンズ(現:埼玉西武ライオンズ)のホームグラウンド。
そんな事情もあって、プロ野球が福岡にやってくることを喜ぶ人がいる反面、昔からのライオンズファンには抵抗があったそうです。
そんなさなか、福岡ダイエーホークスがとった戦略は、ロイヤルティ・ゼロ。
つまり、福岡ダイエーホークスの商標を商業目的で利用する場合でも、使用料を徴収せず、地元商店等に活用してもらおうという逆張り戦略をとりました。
これにより、ダイエーホークスが失ったロイヤルティは、当時の価値で数億円。
しかし、この戦略は大成功。
この戦略をきっかけに、九州の人たちの身の回りに「ダイエーホークス」や「ダイエー」といった言葉が溢れ、いつのまにやら親近感を覚える存在に育ちました。
その結果、球団全体の売上が大きく伸び、九州の人たちに愛される球団に成長しました。
それは、ことし日本一を達成したときの姿をみても明らかでしょう。
時代は流れ、親会社がダイエーからソフトバンクになったいまも、九州の人たちに愛される球団に育った裏には、こういった知財戦略が隠れています。
福岡ダイエーホークスの例には、単にロイヤルティを稼ぐだけが「知的財産による収益のあげ方」ではないというヒントが隠されているのではないでしょうか?